国交省が「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました

 国土交通省は6月21日、空き家等の流通促進を目的とした「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定したことを公表しました。

 空き家や空き地、マンションの空き室などの急増が課題となる一方で、二地域居住などの新たな働き方・住まい方へのニーズが高まっています。また、空き家等を放置すると使用が困難となったり、やがては周辺環境などに悪影響を及ぼすことから、「使える」空き家については、なるべく早く利活用を図ることが効果的と考えられています。
 そこで物件調査、価格査定、仲介と、流通・利活用まで一括してサポートできるノウハウを有している不動産事業者が、所有者の抱える課題を解決し、また新たなニーズに対応するといった際にノウハウを発揮できるよう、同省において「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定したものです。

 プログラムは「I 流通に適した空き家等の掘り起こし」と「II 空き家流通のビジネス化支援」で構成されています。
 「I」では、他業への取次ぎを含めた所有者への助言サービスの強化や、空き家所在地から離れた地でも相談可能な体制整備といった「所有者への相談体制の強化」、空き家専門家の育成のための業界研修の充実化、関係者とのネットワーク形成を念頭に置いた「不動産業における空き家対策の担い手育成」、その他「地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大」や「官民一体となった情報発信の強化」を掲げています。
 「II」では、「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」、「”空き家管理受託のガイドライン”の策定・普及」、「媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進」」、「不動産DXにより業務を効率化し、担い手を確保」することを盛り込んでいます。

 不動産事業者を活用する方向性を打ち出している背景には、不動産事業者(正確には「宅地建物取引業者」 )はすべての都道府県で登録数が増えているにもかかわらず、市区町村単位で見ると不動産事業者のない自治体が247にのぼる実態があります。これらの地域は、人口減少に伴って日ごろの不動産流通の媒介需要が減っているため、不動産事業者が撤退減少する一方で、空き家等が増えている地域であるとも言えます。

 なお5月9日の本欄でお伝えした「低廉な空き家等の売買に係る報酬上限」の引き上げや、「長期空き家等の賃貸者における貸し主からの報酬上限額」の引き上げについて、法的根拠となる「昭和四十五年建設省告示第千五百五十二号の一部を改正する件」が6月21日に正式に公布され、施行は7月1日からとなることが確定しました。

 概要を再掲しますと、このような種類の不動産取引の媒介にかかる費用を勘案し、
・売買では、30万円の1.1倍を上限に報酬を受領できるようになります。
・賃貸では長期の空き家について、原則による上限(貸主・借主から合計で借賃1か月分の1.1倍)を超えて貸主から1ヵ月分の2.2倍を上限に受領できます。
・これに加え、「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」が策定・公表されました。空き家等の活用等に係る課題整理、相続に係る相談、空き家等の活用方針の提案・比較といったコンサルティング業務については、媒介報酬とは別に報酬を受けることができることが明確化されています。

 不動産事業者のコンサルティング業務への秩序ある進出支援の要素もありますが、空き家対策は、当事者である所有者お一人お一人にとって、そして国民経済的に重要な課題ですので、これらの施策が効果を発揮することを願っております。

(出典)
国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラム」:https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001749896.pdf
「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し(令和6年7月1日以降)」(概要版):https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001749923.pdf
「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」(概要版):https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750008.pdf

フリーランスの取引に関する新しい法律が11⽉にスタートします

フリーランスの方々が安心して働ける環境を整備するため、いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が本年11月1日に施行されます。

この法律により、事業者がフリーランスに業務委託をした場合、書⾯等により、直ちに、以下の取引条件を明⽰することが義務化されます。

書⾯等による取引条件の明⽰
「業務の内容」
「報酬の額」
「⽀払期⽇」
「発注事業者・フリーランスの名称」
「業務委託をした⽇」
「給付を受領/役務提供を受ける⽇」
「給付を受領/役務提供を受ける場所」(中略)
「(現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項」。

発注者の規模が大きくなると育児介護等との両立に対する配慮など、上記以外の義務項目が増えます。

受注者・発注者のいずれの立場であっても理解しておくことが必要です。
(参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

相続の揉め事の3/4は遺産が5千万円以下(令和4年司法統計から)

遺産の分け方についてどうしても相続人間で協議が調わない場合に、最終的に家庭裁判所の判断を仰ぐという形をとることがあります。そこまでもつれるのは遺産が高額な場合が多いのでしょうか?

ヒントになるのが、過日公表された令和4年分の司法統計(*)です。司法統計は、各年ごとに刑事・民事・家事・少年など各種事件の裁判件数やその決着状況を細かく分析集計した統計です。
それによりますと、同年中に決着を見た遺産分割審判および調停案件の総数は6,857件。遺産の価額別では、1千万円以下が2,296件(33%)、1千万円超5千万円以下が2,935件(43%)、5千万円超1億円以下が802件(12%)、1億円超が573件(9%)、となっています。(それ以外に算定不能・不詳が251件(4%)あります。)

つまり、件数ベースでは全体の3/4、76%が5千万円以下の遺産についての争いになっています。しかも、裁判所による審判や調停での判断は法定相続分を強く意識した結果になることが多いので、そんなことなら弁護士を立てて裁判所に持ち込まなくてもよかった、ということにもなりかねません。

弁護士費用には成功報酬部分もありますが、たとえ少額の案件であっても一定の固定的費用は請求されますので、遺産の価額が多くなければ相対的に弁護士費用の割合が高くなって、手許に残る金額割合も少なくなります。

先ずはそうならないように、家族で予め話し合ってスムーズな相続が迎えられるようにしておくことが肝要ですね。

(*) 令和4年 司法統計年報(家事編)第52表
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/659/012659.pdf

800万円以下の不動産売買の宅建業者報酬上限が最高33万円に(7月1日から実施予定)

―国交省、空き家対策で告示の6年ぶり改正を目指す―

国土交通省は5月2日に宅建業者が得る報酬の上限に関する告示の改正案を意見公募(パブリックコメント)で公表しました。告示改正は6月にまとめる「不動産業による空き家対策推進プログラム(仮称)」の一環で、意見公募の後、改正告示はプログラム策定と合わせて公布され、7月1日に施行の予定です。

宅建業者が受領できる報酬(仲介手数料)の上限は、宅地建物取引業法に基づく大臣告示が定めています。売買の場合、売主・買主の一方から受け取れる報酬額は、物件価格に応じて一定の料率を乗じて得た額の合計金額以下と規定されています。社会課題となっている地方部の空き家は価格が低くて宅建業者が得られる報酬が少額になるため、空き家をビジネスで扱ううえでの大きな課題となっていました。

国交省案では

国交省案では、7月1日から、売買を対象とする「低廉な空家等の媒介特例」(18年1月1日施行)を拡充することとしています。
現行では、物件価格400万円以下の宅地建物を対象に、売主からのみ最大18万円×1.1(19.8万円。うち1.8万円は消費税相当額。)まで報酬を受領できます。これを同日から800万円以下の物件まで対象を広げます。また、報酬の上限も最大「30万円×1.1(33万円)」に引き上げます。更に、買主からも最大33万円の報酬を受け取れるようにします。宅建業者による空き家ビジネスへの積極参加を促すのがねらいです。
800万円以上の物件の売買についての報酬額上限は従来通りで、変更はありません。

賃貸借についても

賃貸借を対象にした新たな「長期の空家等の媒介特例」も創設します。
賃貸借取引の場合、原則の報酬上限は「借主と貸主の合計で1カ月分の借賃×1.1の金額以内」(*)となっていますが、
・長期間使用されていない、または
・将来使用の見込みがない空き家、
については「貸主から原則による上限を超えて報酬を受領できる」とし、特例を適用した場合の報酬は「合計して1カ月分の借賃×2.2」までとします。報酬額全体は1カ月分の借賃の2.2倍へ増えますが、新たに上乗せできるのは貸主からの報酬のみです。
まだ市場に出ていない空き家を流通させることを考えた場合に、賃料設定のための物件調査業務など、通常の賃貸仲介では発生しない貸主側の業務が増えることをカバーするためです。

(*) 居住用建物の場合は「依頼者の一方から1カ月分の借賃×0.55の金額以内」になります。(依頼者の承諾を得ている場合は除きます)。

7月までは宅建業者の引き受け渋りがあるかも

7月からの報酬上限額引き上げを見越して、宅建業者側は仲介契約の締結時期を先送りにするかもしれません。
これからも、空き家を巡る制度の動向に気を配る必要がありますね。

(参考)国土交通省:「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の一部改正案に関する意見募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155240307&Mode=0

相続土地国庫帰属制度で2023年度の帰属は248件

相続土地国庫帰属制度が昨年(2023年)4月27日に始まりましたが、昨年度の結果が先日法務省から発表されました。
それによりますと、昨年度末、すなわち2024年3月31日現在で、
・申請件数は1,905件で、内訳は「田・畑」38%、「宅地」36%、「山林・その他」26%、
・そのうち国庫に帰属した件数は約13%の248件、でした。

一方、却下や不承認の件数は却下6件、不承認12件、また申請者による「取下げ」が212件で多くなっています。
取下げは、隣地所有者から土地の引き受けの申出があったり、途中で却下・不承認相当の土地と分かり諦めたりするケースが多いようです。

この制度の利用を検討中の方はあらためて説明資料をご一読されると良いでしょう。
当事務所でもご相談にお応えしておりますので、お気軽にお問合せ下さい。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」 :https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html
   制度の概要はこちらhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

「相続放棄」と「相続分の放棄」

 日常の会話では「相続放棄」と「相続分の放棄」の区別を意識せずに使うこともありますが、実は大きな違いがあります。相続人の中でこの違いに詳しい方や弁護士など専門家とやり取りするときは特に意識しておかないと、後で行き違いが生まれて揉め事に発展する可能性もあるので注意が必要です。

  「相続放棄」は、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことをいいます。「相続放棄」は、相続が開始したことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に申述書を提出し、それが受理されることによって認められます。被相続人がご存命中に予め相続人となるであろう方が放棄の手続きをすることはできません。

 相続放棄すると、その方は最初から相続人でなかったことになります。相続に関するすべての権利義務から離れることになりますが、注意が必要なこともあります。たとえば、親が亡くなり子供が第一順位の相続人となって相続放棄した場合に、親の親(相続人の祖父母)がご存命であれば、祖父母が第二順位の相続人になります。また、祖父母は既に亡くなっていて親(被相続人)に兄弟姉妹がおられれば、この方々が第三順位の相続人になります。相続財産中の負債がプラスの財産を上回って相続したくない場合はこれらの相続人全員が相続放棄する必要があります。また、相続放棄するとその子や孫への代襲相続はありませんので、借金を引き継ぐことはありません。

 一方、自分の父の弟である叔父が借金を残して亡くなった場合、その叔父の子も親も相続放棄をすれば、第3順位である父に相続権が回ってきます。もし父が亡くなっていれば、自分が叔父の借金を代襲相続してしまいます。叔父の借金を引き継がないようにするには、自分も相続放棄しなければならないことを知っておきましょう。

  「相続分の放棄」は遺産についての自身の取り分を放棄することです。 相続分の放棄をする場合には特別な手続きは要求されていません。他の相続人に意思表示をして、遺産分割協議書にその旨を記載してもらい、相続分の放棄をした者も含めた相続人の全員が署名して押印すれば成立します。

 相続分の放棄を検討してもよい場合としては、以下のような状況が考えられます。
・多額の生前贈与を受け取っており、法定相続分を上回っている、
・少数の相続人に遺産を集中させたい、
・遺産分割を簡単に終わらせたいケース

 これらのケースのうち、負債はないものの、特定の相続人に遺産を相続させたい場合には、相続分の譲渡をすると良いでしょう。 相続分の譲渡をするときには、譲渡の事実を証明するために、当事者間で「相続分譲渡証明書」を作成すると良いでしょう。

相続登記の申請義務化がスタートしました(2024年4月1日)

 昨日2024年4月1日から「相続登記の申請義務化」が始まりました。これまでは家や土地といった不動産を相続しても、その所有権が移転したことを登記する名義変更(相続登記)は売却や抵当権設定などの手続き上の必要がなければ任意でした。それが、期限内に名義変更をしないと10万円以下の過料を科されるようになります。義務化以前は相続した人が不要な不動産を放置して所有者不明の土地が増えていたため、社会公益の観点から対策として打ち出したものです。

 相続登記の期限は、これから相続する人なら不動産を相続で取得したことを知ってから3年以内、4月1日より前にすでに相続している人は2027年3月31日までとなります。

 相続が発生すると相続財産の確認や遺産分割協議(遺言書がない場合)、必要な人は10か月以内の相続税の申告・納付など多くの手続きが必要でしたが、そこに相続登記が加わったことになります。ところが、相続税が課税されない人は申告不要なので手続きが必要とは認識しにくく、見逃してしまうケースの可能性があります。

 相続税には「3000万円+600万円×法定相続人数」の基礎控除があるので、母と子2人が相続人で、遺産が父の残した評価額2000万の自宅とわずかな預金のみ、といったケースでは相続税は発生しないことになります。ただ、そうした場合でも「相続登記」はしなくてはならないので、注意が必要です。

 また、子供が知らないところで親が不動産を所有していたり、親戚の相続に由来する共有持分を持っていたりすることも考えられます。2026年2月2日施行予定の新制度『所有不動産記録証明制度』では、所有者の名前を検索キーにして不動産を所有していたかを全国的に調べられる制度です。この制度を活用すれば簡単に親の所有不動産が見つかる可能性が高くなります。制度の開始後は、積極的に活用して親が不動産を所有していたかを把握するように努めるといいでしょう。

 法務省は先月28日付で相続登記申請義務化に関するホームページをアップデートしています。心当たりのある方はご一読されることをお勧めします。
【ご参考リンク(法務省)「相続登記の申請義務化について」】
 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html#mokuji10

 ご不明のことがございましたら弊所でもご相談をお受けいたします。

スタートアップ起業をお考えの皆さんに朗報です!

小規模でシンプルな形態の会社をスピーディーに設立したいという起業者のニーズに応えるため、株式会社を設立する際の定款認証について日本公証人連合会による以下の新しい3つの取り組みが始まっています。

  1. 発起人が3名以下の株式会社設立のための定款作成支援ツールを公開しています。(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/startup.html)
  2. 現時点では東京都と福岡県に限定ですが、この定款作成支援ツールを利用しかつ添付書類が適正に用意されている場合は、申請して48時間以内に認証を完了する試行運用が始まっています。
  3. 公証人による面前審査手続きは原則としてウェブ会議で行うことになります。(全国で、2024年4月から)

このうち、とりわけ定款作成支援ツールは法務省の協力も得て、法令上必要とされている記載事項をもれなく記入することができ、認証の事前チェックで指摘されがちな記載漏れを防げるなど、起業する側にとってのメリットが大きい施策です。

起業を考えておられる方は上記のサイトをご一読されてはいかがでしょうか。
(ただし、このツールで作成される定款は、小規模で取締役会を設置しない機関設計の場合に当てはまる内容になっています。特殊な形態をお考えの場合は、ご自身で作成されるか、専門家の助言を得るようにしてください。)

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