認知症対策の2大ツールを徹底比較任意後見契約とは何か「任意後見契約(にんいこうけんけいやく)」は、将来自分が認知症などによって判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見人)を選んでおき、その人に財産管理や身上監護を代理してもらう契約です。任意後見契約は「任意後見契約に関する法律」に基づく制度であり、公正証書で作成することが法律上義務付けられています。また、実際に後見人の支援が必要になった段階で家庭裁判所に申立てを行い、「任意後見監督人」が選任されて初めて効力が始まります。任意後見契約の基本的な仕組み項目内容法的根拠任意後見契約に関する法律契約方式公正証書(必須)効力発生本人の判断能力が低下後、家庭裁判所への申立てで開始監督機関家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」できること財産管理・身上監護(医療・介護の手配等)できないこと医療行為への同意、遺言の作成代理など家族信託と任意後見契約の比較比較項目家族信託任意後見契約法的根拠信託法任意後見契約に関する法律効力発生タイミング契約締結後すぐ(生前から有効)本人の判断能力低下後+裁判所申立て後裁判所の関与原則不要必要(任意後見監督人の選任)財産管理受託者が独自に管理・処分可能後見人が代理(本人の意思確認が前提)身上監護信託だけでは不可可能(後見人が行える)監督コスト監督人がいない場合は不要任意後見監督人への報酬が継続的に必要不動産売却受託者が独自に可能後見人が行うが裁判所の許可が必要な場合も認知症対策◎(認知症前後を通じて機能)○(認知症後に機能)最大の違い①:「いつから」機能するか家族信託は、契約締結後すぐに効力を持ちます。つまり、判断能力がある元気なうちから財産管理を開始でき、認知症になった後もそのまま継続して機能します。一方、任意後見契約は、判断能力が低下してから家庭裁判所へ申立てを行い、任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じます。判断能力が低下するまでは「準備しておく」契約であり、実際に機能するのは認知症になった後です。最大の違い②:「身上監護」ができるか家族信託の大きな弱点は、「身上監護(しんじょうかんご)」に対応できない点です。身上監護とは、本人の生活・医療・介護に関する法律的な判断・手続きを代わりに行うことを指します。たとえば、介護施設との入所契約の締結、医療機関への入院手続き、訪問介護サービスの申込みなどは、家族信託の受託者としての権限では行えません。これらについては、任意後見制度や成年後見制度を別途利用する必要があります。組み合わせの効果家族信託と任意後見契約を組み合わせることで、「財産管理は家族信託で」「身上監護は任意後見で」という形で、元気なうちから認知症後まで切れ目なくカバーすることができます。この組み合わせが、認知症対策として最も充実した設計といわれています。任意後見契約のメリット・デメリットメリット身上監護(医療・介護関連の手続き)に対応できる任意後見監督人による監督機能があり、不正防止に効果的本人が自由に後見人・権限の範囲を選べる比較的低コストで設定できる(公正証書作成費用のみ)デメリット判断能力低下後でないと機能しない(開始が遅れることがある)任意後見監督人への報酬が継続的に発生する(月額1〜3万円程度)家庭裁判所への申立てに時間と手間がかかる不動産の積極的な活用(売却・リフォーム等)には制限がある場合がある家族信託のメリット・デメリット(任意後見との比較で)メリット元気なうちから財産管理を開始でき、認知症後もそのまま継続できる裁判所の関与が不要で、機動的な財産管理が可能不動産の売却・リフォーム等を柔軟に行える将来の財産承継(相続)まで一体的に設計できるデメリット身上監護ができない(任意後見等との組み合わせが必要)設定コストが高い信託財産外の財産には効力が及ばないどちらを選ぶべきか認知症対策として家族信託か任意後見かを「どちらか一方」で考えるのではなく、両者を組み合わせることが理想的です。財産管理は家族信託で対応し、身上監護のために任意後見契約も別途締結しておく、というのが最も手厚い備えといえます。ただし、コスト面の制約がある場合や、財産が少ない場合などは、任意後見契約のみで十分なケースもあります。専門家に相談しながら、ご自身の状況に合わせた選択をすることが大切です。まとめ家族信託は「財産管理」に強く、任意後見契約は「身上監護」に対応できます。両者を組み合わせることで、認知症に関するリスクをより広くカバーできます。次回(第5回)では、家族信託と「法定後見制度」の違いについて詳しく解説します。