法定後見制度とは「法定後見制度(ほうていこうけんせいど)」は、すでに判断能力が不十分な状態になっている人を保護するために、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選任する制度です。任意後見制度が「将来に備えてあらかじめ自分で後見人を選んでおく」制度であるのに対し、法定後見は「認知症等により判断能力が低下してから、家庭裁判所が関与して後見人を選ぶ」制度です。(法定後見制度のうち、成年後見制度は2028年12月までに大幅な制度改正が行われる予定ですが、ここでは執筆時点での制度に基づいて記述しています。)法定後見の3つの類型類型対象となる状態後見(こうけん)判断能力が全くない、またはほとんどない状態(重度の認知症など)保佐(ほさ)判断能力が著しく不十分な状態(日常的な買い物はできるが、重要な決定は難しい)補助(ほじょ)判断能力が不十分な状態(日常生活は概ねできるが、一部の重要な判断に支援が必要)最も多く利用されているのは「後見」類型です。家庭裁判所が選任した後見人(成年後見人)が、本人の財産管理と身上監護を行います。法定後見の問題点法定後見制度は、判断能力が低下してから利用できるセーフティネットとして重要な制度ですが、実務上いくつかの問題点・課題が指摘されています。後見人は家庭裁判所が選任するため、必ずしも本人の希望する人物(家族)がなれるとは限らない(弁護士・司法書士等の専門職が選ばれるケースも多い)後見人への報酬が月額2〜6万円程度(専門職後見人の場合)継続的に発生する財産の処分・運用に制限が多く、積極的な資産活用が難しい不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要な場合があり、手続きが煩雑一度開始すると、本人が死亡するまで原則として後見が継続する親族間でのお金の融通が難しくなる家族信託と法定後見の比較比較項目家族信託法定後見制度利用開始元気なうちから設定・開始可能判断能力低下後(判断能力がないと設定不可)後見人/受託者の選定委託者が自由に選べる(家族等)家庭裁判所が選任(専門職になることも)裁判所の関与原則不要必要(申立て・監督・許可等)身上監護できないできる財産の積極運用柔軟に可能制限が多い報酬コスト受託者への報酬は任意設定専門職の場合は月2〜6万円程度不動産売却受託者が柔軟に対応可裁判所の許可が必要な場合あり制度の持続性信託目的達成まで継続本人死亡まで継続(原則)家族信託の「倒産隔離機能」という重要なメリット家族信託には、法定後見にはない「倒産隔離機能(とうさんかんりきのう)」という重要なメリットがあります。これは、信託財産は受託者の固有財産と分離されるため、受託者が破産等した場合でも信託財産は保護される、という機能です。つまり、息子を受託者に設定していても、万一息子が債務問題を抱えた場合でも、信託財産(たとえば父親から信託された不動産)は守られます。法定後見では、こうした財産の分離保護の仕組みはありません。法定後見にしかできないこと一方で、法定後見(および任意後見)にしかできないこともあります。身上監護(医療・介護施設との契約等)本人が認知症になった後から始める財産管理(家族信託は事前設定が必要)取消権の行使(後見人は、本人が行った不利益な法律行為を取り消せる)特に「本人がすでに認知症になってしまった後」に相談にいらっしゃる場合は、家族信託は設定できません。この場合は法定後見しか選択肢がないため、早期の対策が重要です。重要なポイント家族信託は「元気なうちしか設定できない」制度です。認知症になってしまってからでは手遅れになります。「まだ大丈夫」と思っているうちに早めに専門家に相談することが、将来の選択肢を広げることにつながります。法定後見・家族信託のメリット・デメリット整理法定後見のメリットすでに判断能力が低下している人でも利用できる家庭裁判所による監督があり、本人の権利が守られる身上監護が可能専門的知識を持つ後見人が選任されることも多い法定後見のデメリット本人が後見人を選べない専門職後見人の場合は継続的な報酬が発生する財産運用の自由度が低い手続きに時間がかかるまとめ法定後見制度は、判断能力が低下した後のセーフティネットとして重要ですが、財産運用の自由度が低く、継続的なコストが発生するという課題があります。家族信託は元気なうちに設定する必要がありますが、柔軟な財産管理と低コストでの運用が可能です。次回(第6回)では、家族信託と「遺言書」の違いについて詳しく解説します。